特集コラム

Column 7 西荻窪のイベント・芸術

2010/08/20

遊空間がざびぃ【最終公演】

Project*Rocca 劇場連続ワークショップ 【アトリエ 2010】

遊空間がざびぃで行われた演劇ワークショップ最終公演の様子。

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ワークショップの参加者による公演が行われる11日、開場時間である17時30分に友人を連れてがざびぃを訪れると、がざびぃの中には舞台の中心を囲むように即席の観客席が出来ていた。
今日の公演の参加者たちは衣装なのか全員全身黒い衣服に身を包み、女性は首に色とりどりのストールを巻いている。そして、めいめいストレッチや緊張を和らげるために話をしていたりしている様子で適度な緊張感が漂っている。
どうやら、最後まで打ち合わせやら練習やらをしていたらしい。臨場感あふれるなあ。

公演自体は無料で行われるため、ワークショップの参加者たちの友人や、純粋にこの公演を観に来た方々が、出演者たちとがざびぃの同じ空間内をウロウロし、物珍しげにキョロキョロしている様子が新鮮。なかには三脚にビデオ持参の方も!

受付のなおさんとユキオさんに挨拶をし差し入れを渡したり、ワークショップの参加者たちの何人かに「頑張ってね!」と声をかけているうちに、とうとう公演の開始の時間が来た。舞台にたつことは出来なかったけれど、ワークショップ参加者として公演の成功を祈りドキドキして舞台の開始を待つ。

始めになおさんが観客に簡単な挨拶をし、この公演がワークショップであることなどの説明をした後、公演の始まりを告げると、いつのまに出演者たちの間には緊張感が張り詰めており、会場が波を打つようにしんとなった。

そこにラジカセにより静かでゆったりとした音楽が流れだし、出演者たちは全員が舞台の中央に現れ、これまでのワークショップで繰り返し行ってきたムーバーとレシーバーを自然な二人組になり行い始めた。それが音楽とともにゆるゆると全員で輪になってゆき、ゆっくりシンクロするように同じ動きをする。

これもワークショップで私も体験したことである。あくまで自然の流れでそうなっていくのだが、観客として観てみるとまるで出演者が予め決められたダンスを踊っているように見えた。
そして、音楽が終わりに向かうに合わせて、ゆるゆると数名が舞台中央から退場し、舞台には三人の女性が残された。音楽が完全に終わる頃、三人はまるで胎児のように舞台中央にうずくまっていた。

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突如、物語が始まった。3人はいつの間に起き上がり、けたたましく会話を始めた。どうやら前回のインプロでもやった、全員姉妹という設定らしい。『山田家三姉妹』だそうだ。
前回のインプロのスタートと同じく、3姉妹なのだが演じている人が違うので個性も正確も違うのでまるで別の姉妹に仕上がっている。
ただ、女が3人も集まれば、3人しかいないのに、やはり物凄くけたたましいのは前回のインプロと一緒(笑)3人の会話から、3人の母親は海外旅行に行っていることが分かる。大工をしているという三姉妹の弟も出てきた。これは前回のインプロの時とは異なる設定。しかし、さんざん他の姉妹にからかわれる可哀想な役どころである。

そのうち三姉妹には、れぞれ他の姉妹にも誰にも言えない悩みがあり、彼女たち一人一人が夢の中(現実ではない世界)で三姉妹の母親に懺悔するように悩みを告白していくシーンが出てくる。夢の中の母親は一人一人を愛おしげに心配そうに話を聞き、泣く娘たちを全てを許して慰めるように頭をなでる。

こうしてどんどんこの新しい三姉妹たちの物語は展開していき、笑いあり涙ありで観客が出演者と一体になって物語にのめりこんでいった。しかし、クライマックス間近の「さあ、これからどうなるの?!」というあるシーンで、それまで観客席で観客と一緒に舞台を観ていたなおさんが突如舞台中央に現れ、劇自体にストップをかけた。

「はい、皆さん。一度ここで物語を止めます。実はこの物語のこれからの展開は、まだ決まっていないんです。この後の展開はここにいる皆さんの意見で決めていきたいと思っているんです!
これからこの後のストーリーを3つ提示します。この物語がどんな話になるのが一番良いと思うのか、皆さんそれぞれが選んでください!」

えーーー!!!と観客はざわめき、私と友人も顔を見合わせた。そんなのアリなの?!大丈夫なの?!思ってもみなかった展開にびっくり!
しかしなおさんだけはニコニコしながら冷静に、この後の展開を紙に書いたものを3つ提示していく。

「それでは、この3つの中で貴方が良いと思ったものをひとつだけ選んで、挙手してください!」

ほ、ほんとうにそれで決めちゃうんだ。それまで真剣に演じていた出演者たちも、心得たもので物語がどうなっていくか観客にゆだねようと笑いながらこちらを見ている。完全に観客と出演者の立場が入れ替わってしまった。やってくれるなあ…(笑)

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そして、多少票が分かれたものの、多数決により観客が決めた展開で物語が進むことになった。つまり、ここからの物語は完全に全て出演者のアドリブで結末へと流れていくのだ。本当にどうなっちゃうんだろう?!これはワクワクする!そんな空気が観客にも出演者にも流れ、また舞台は一体感を持ち始め、物語が再スタートした。

もし、他の展開を選んでいたら?そんなことを考えるのが意味がないぐらい、そこから先の物語は元からそうと決められていたかのようにどんどんヒートアップして盛り上がっていく。出演者は皆舞台の上で生き生きと演じていた。

途中私の横に観客として座っていた、やはりワークショップの参加者の役者の男性が舞台に飛び入り参加することになったりもしたりと、次何が起こるかわからない、でもきっと面白いはず!といった期待も観客に生まれていたのだ。
そして、なんとか物語は大団円を迎え、ラジカセからはリズミカルな激しい音楽が流れ、出演者全員が曲に合わせて踊って賑やかに舞台は幕を閉じた。 最後になおさんから挨拶と観客へのお礼があり、ワークショップの公演は成功を収め終了したのだった。

心に秘密を抱えたまま、人を愛することはできるんだろうか。
かなわぬ愛に、人はどれだけ傷つくんだろうか。
大人なはずの子供たちの、ちょっと駄目で、大いに愉快な、家族と幽霊の物語。

『演劇』は私にとって普段の自分とは関わらない『非日常な世界』の出来事とばかり思っていた。確かに、演劇が非日常であるというのは、ワークショップの体験を通しても変わらず、強まった部分もある。特別な体験というのは間違いない。
しかし、このワークショップを通して、その『非日常な世界』は私の日常の『感情や思考』を通して繋がっていたこともわかった。遠くの手が届かない別世界ではないのだ。
そしてワークショップの始まりでなおさんが言った「演劇はその『目に見えないもの』が刺激に反応することで、ふるまいとして『目に見えるもの』へとなっていくもの」という意味が少しわかったような気がした。人の内側と外側、日常と非日常は融合できるのだ。

ちなみに、ワークショップの中日のインプロで4人姉妹だった山田家の家族は、ワークショップの公演で4人兄弟として再登場した。そして、この夏(7月29日(木)から8月1日(日)まで終了済み)、今度はプロの演劇の公演『蝿取り紙 山田家の5人兄妹』として生まれ変わり、がざびぃで上演された。

この公演ではユキオさんは演出、なおさんとワークショップ参加者出身の役者たちの何人かも出演していた。
ワークショップとは異なり、しっかりとした演出や脚本による山田家の兄弟たちの物語は、大変完成度が高い舞台として出来上がっており、この物語に初めて触れる一般の観客たちも感動の渦に巻き込んでいたようだ。だが、ワークショップから関わったからこそ味わえた感動は、残念ながら言葉に出来ないものだった。

がざびぃでは今もこれからも様々な演劇ワークショップをこれからも開催する予定だ。貴方も一度、自分の日常から一歩踏み出して、非日常の演劇の世界を味わいにがざびぃに来てみてはいかがだろうか。一観客として演劇を鑑賞する視点とは違った、新たな演劇との関わりが生まれてくるかもしれない。

< 遊空間がざびぃワークショップ編 了 >

がざびぃ芝居月第四陣 「蝿取り紙 山田家の5人兄妹」 / 『Project*Rocca』公演
(終了済み)
作:飯島早苗/鈴木裕美(自転車キンクリート)
演出:奥沢侑生(ユキオさん)出演者:おきなお子(ナオさん)他

遊空間がざびぃ
http://www.gazavie.com/

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【紹介記事】
http://www.nishiogi-navi.com/news/column/column1/column1005.html
【ワークショップ編】
ワークショップ編 一回目
ワークショップ編 二回目(前編)
ワークショップ編 二回目(後編)

文・取材 / raku

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